2013年1月20日日曜日

そして、事件は起きた。ワルザザートの長い夜

ベルベル・パレスにチェックインし、夕食を摂りに町へと繰り出しました。ワルザザートは人口6万人程度の小さな町。これといった盛り場もないようで、ホテルで夕食でも良かったんですが、トリップアドバイザーで調べたところ、高評価のタジン屋がホテルから徒歩圏内にあることが分かり、早速突撃です。


これも「シェルタリング・スカイ」で使われたという、ワルザザートのカスバを通過したところに、小さな広場に面して目指すレストランがありました。

隣接して2軒のレストランが並んでいたため、どっちがどっちか分からず、確認のためにiPhoneを取り出します。奥さんにiPhoneを渡すと、私は隣のレストランに、店名とメニューを確かめに行こうと奥さんのそばを離れました。

するとその時。

背後から男が現れ、電光石火のごとくiPhoneを奪い取ると、一目散に走って逃げたのです。

やられた!

「こらこらこら、ちょっと待て! 泥棒ぉおおおお! 誰かそいつを捕まえてくれ!」 

我々も全速力で後を追いかけます。

男は、暗がりの道をずんずん走って逃げます。周りの人たちも騒ぎに気づき、気がつくと少年たちが何人か一緒に走って追いかけています。

しかし、男の逃げ足が速い上に、曲がりくねった路地に入ってしまったので、ほどなく見失ってしまいました。

追跡を諦め、逆上した気分を落ち着かせながらもといた場所に戻ります。少年たちが何人かついてきます。


さあ、この後どうするか。まずは状況を整理しよう。

アンロックのiPhoneを盗まれた。盗られたものは他にない。ケガもない。 犯人には逃げられた。恐らく半径1〜2キロぐらいにはいるだろう。そしてギャラリー(少年たち)が数名ついてきている。

まず、この少年たちが我々の味方なのか、それとも犯人とグルなのか判断がつきません。何しろこの町には、さっき着いたばかりで何も分からない。だけど、少年のうちの1人から、困っている我々の手助けしたいという雰囲気が感じられたので、ひとまずこの少年を頼ることにします。

「取りあえず、警察を呼んでくれる? あと、WiFiの使える場所あるかな?」

こっちにはまだソフトバンク契約のiPhoneがあるので、もう、あれをやるしかない。

そうです。Find iPhoneです。少年の知り合いのレストランに入り、WiFiのパスワードをもらって「ピコーン…………」


しかし、見つかりません。犯人は電源を切っていました。こりゃ常習犯の可能性もあるな。

ここで思案橋。

Find iPhoneには、パスコードでロックする「ロック」機能と、相手が電源を入れたところで通知を受ける「見つかったときに通知」機能もある。つまり、追跡を続けるというオプションも考えられる。一方、遠隔操作でiPhoneの中身を消す「iPhoneを消去」という機能もある。しかし、これを実施してしまうと、もう二度とFind iPhoneでは見つからない。こちらは、追跡を諦めるというオプションです。

もしも、気づかずにiPhoneを紛失したというのなら、迷わず前者でしょう。しかし今回のは最初から犯罪です。しかも異国の地。犯人の居場所をつきとめたところで、徒手空拳で突入するというのはあまりに危険です。もちろん、お巡りさん同伴ならば話は別ですが。

少年に警官を呼んでもらっていたはずなんですが、それらしき人物はどこにもいないし、来る気配もありません。そもそも、言葉が今イチ通じてない。どうやら、自分たちが警察署に行く方が早いようです。

さっきの少年に、「我々は警察に行く。警察はどこにある?」と言うと、どこからかタクシーを呼んでくれました。少年に少しお金を渡してお礼を言い、タクシーで警察署に。署の入り口に立っているお巡りさんに、身振り手振りで事情を説明し、中に入れてもらいます。入り口のベンチで待つように言われた時には、さっきの「思案橋」からもう15分ぐらい経っています。犯人はさらに遠くへ逃げているか、あるいは獲物を処分するための準備にかかっているかも知れない。

我々はここで判断をくだしました。盗まれたiPhoneの「データを消去」するのです。

もう夜の8時半を回っています。思い起こせば、今日は並々ならない集中力を要する長い山岳ドライブをこなした上に、さっきは泥棒を追って数百メートルの全力疾走も強いられました。これからお巡りさんと一緒に、また暗がりの狭い路地に行き、信号を頼りに「あっちだ、こっちだ」とiPhoneを探す姿を想像するのは困難です。しかも、その間国際ローミング料金が青天井で加算されるわけですよ。


やめたやめた。iPhone探すのは諦めた。もう、データ消しちゃう!

警察にWiFiは飛んでいません。設定→一般→モバイルデータ通信→データローミング「オン」で、パケ放題対象外のモロッコのネットに繋ぎます。

Find iPhoneから「iPhoneを消去」をクリックし、盗まれたiPhoneの中身を消去します。

……消去完了。これでもう、Find iPhoneを使った捜索はできません。 データローミングをオフに戻します。

そのうち、お巡りさんに呼ばれて別室へ。警察の人々はあまり英語を解さないのですが、とにかく事件の一部始終を2人で一生懸命説明し、調書を作成していきます。珍しがって、色んな人が取り調べの様子を見に来ます。

「この日本人、どうしたんだ?」「iPhone盗まれたんだよ」というような会話が何度も交わされているのが分かります。

そのうち、広場で世話になった少年と、そのお兄さんまでやってきました。通訳のオッサンも現れました。アラビア語(ベルベル語?)から英語に通訳してくれる人。

調書を作りながら驚いたことには、犯人を追っている間は、とにかく追いかけるのに必死で、我々、犯人の特徴をほとんど覚えていなかったということ。だいたいの身長と、着ていた上着の色ぐらい。「肌の色は?」「何色のズボンを履いてた?」「髪の毛は?」……ほとんど答えられません。

1時間ほど警察で過ごし、終わった時には夜9時半を回っていました。警察署長がホテルまで送ってくれます。感謝。まだ開いていたホテルのイタリアンレストランで夕食&反省会。


こんな、取っ手つきのワイン(CAESARという名前のモロッコワイン)を飲みながら、異国で犯罪事件に遭遇したことについて2人で振り返ります。

あの時、iPhoneはもともと私が持っていたんです。だけど、奥さんが「ちょっと貸して」って私からiPhoneを受け取った。しかも、そのタイミングで私は「ちょっと隣を見てくる」と2〜3メートル離れた隣のレストランを見に行った。その瞬間を犯人は見逃さなかったわけです。つまり、しばらくの間、尾行されてたかも知れない。いずれにしろ、我々は狙われてた。

しばらく前にYouTubeで話題になった、この動画を思い出しましたよ。地下鉄でiPhone盗まれる瞬間。



本質的に、同じ手口です。

我々は、もっと危機察知アンテナを研ぎ澄まさなくてはいけませんでした。だけどまあ、今回は被害がiPhoneのみで済んだことは不幸中の幸いですね。あと、少年たちや、警察の人たちが親切にしてくれたので大分救われました。


翌日の午前中、また別の警察オフィスに行って、盗難に遭った証明書を作ってもらいました。


これで、海外旅行保険の保険金の請求を日本に帰ってから行うことができます。iPhoneを買った時の領収書が別途必要です。

今回の事件、それなりに凹みましたが、海外旅行保険のおかげで被った損害は多少なりとも取り返せる見通しです。クレジットカードに付帯している保険ですが、こういう目に遭うと、あるとないとで大違い。もちろん、現地でちゃんと警察に届け出る。それから、領収書はちゃんと保管しておく。この2点がポイントですね。

しかしまあ、絵に描いたようなひったくりでした。海外でiPhone使う方はくれぐれもご注意ください。女性の方は特に。去年、北京でもそんなこと言われたっけ。

さてと、書類ももらったし、気を取り直してスタジオ見学にでも行きますか。

追記;
旅行保険の保険金請求はつつがなく受理され、申請からおよそ1カ月後に保険金が振り込まれました。iPhoneは1年半前に買ったものですが、免責分と減価償却分を差し引いた分ということで、買った値段の80%が返ってきました。メッチャ嬉しかったですよ。警察署で頑張った甲斐があった。

繰り返しますが、盗難に遭ったら現地でちゃんと警察に届け出る。それから、ガジェットの領収書はちゃんと保管しておく。この2点がポイントですね。

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